これはとあるFの物語である――――――
Fは、地方都市で最も偏差値の高いD高校に通う、一言で言えば、天才男子高校生だった。
そもそも、D高校はいわゆる進学校地元では「最も入るのが難しい高校」と言われており、D高校出身者はその将来を期待される存在である。
そんな中でも、Fは突出した学力を持っていた。
入学以来、全科目学年1位を何度も独占し、クラスメイト達は彼のT大合格を確信していた。
「他の人も別に頭は悪くはない。彼らもT大に合格することはできるだろう。しかし、Fはまさに別格だ。確実にT大に行けるレベルの学力がある。」
と言われるくらいだった。
まさに、Fは雲の上の存在、憧れの的だった。
Fにとっても、「トップ高の中でも際立って勉強ができるF」というポジションを得たことは非常に満足のいく状態であり、かつ、それが
「当たり前」
の日常であった。
しかし、あるテストの返却の日、Fの完璧な世界は音を立ててガラガラと崩れ去る。
数学のテストで、彼は初めて2位という屈辱を味わったのだ。
真っ赤な点数が並ぶテスト用紙を見つめ、Fの脳裏を支配したのは、焦りと絶望の波だった。
「馬鹿な……」
「1位じゃなければ...T大学に行けないかもしれない...」。
入学以来、常勝を当たり前としてきたFにとって、2位という結果は許されない敗北を意味していた。
周囲の「頭脳派」たちに尋ねても、誰も1位を知らないという。
焦りとともに、Fの中に奇妙な感情が芽生え始めた。
「1位は一体誰だ? なぜ俺を打ち負かした? 俺は完璧のはずなのに...」。
Fは1位探しに躍起になるが、一向に見つからない。
ライバルの正体を知りたいという思いと、自分が敗北したことを認めたくないという葛藤が、彼の心を苦しめる。
絶望と焦燥に駆られながらも、Fは意地を張る。
「俺はまだ負けていない! 絶対に1位になってやる!」。
彼は再び勉強に打ち込み、完璧な満点を目標とする。
机に向かう時間は増え、睡眠時間も削る。Fの周りには、参考書と問題集の山が築かれた。
そして迎えた化学のテスト当日。
Fは渾身の力を振り絞り、最後の問題にも果敢に挑戦する。試験終了後、彼は自信に満ちた表情で解答用紙を提出した。
数日後、テスト結果が発表される。Fは緊張しながらその時を待つ。
そして、ついに自分の番が来た。
彼は目を疑った。
なんと、彼の点数は99点だったのだ。
1位は100点。Fは再び2位という屈辱を味わった。
Fは呆然と立ち尽くす。信じられない。
頑張って勉強をしたはずなのに...。
ライバルは一体誰なのか? 1位は一体どこにいるのか? Fの心は虚無感と敗北感に包まれた。
しかし、Fはすぐに立ち直った。「くそっ、負けてたまるか! 次こそは満点を取ってやる!」。
彼は再び勉強に打ち込み、ライバルへのリベンジを誓う。
「今まで当たり前のように1位を取れていたけれど、それはただの偶然に過ぎなかったんだ。」
「確実に1位を取るためには満点を必ず取らなければいけない。よく考えたら当たり前のことだ……!」
そして迎えた次のテスト。Fは解答用紙を提出する。しかし、結果はまたしても2位だった。
Fは絶望する。
一体どうすればいいのか?
ライバルは一体誰なのか?
Fは完全に自信を失い、勉強への意欲を失ってしまう。
そんなある日、Fは偶然、不登校がちだったクラスメイト、Aが保健室に入っていくのを見かける。
Aはいつも教室にいないため、FはAの存在をほとんど意識していなかった。
何故、同じ教室にはなかなか姿を現さないのにAは保健室には行くのか。意味が分からない。
「さすがFくんは頭がいいね」と幾度となく言われ、D高校内での「勉強できるやつ」キャラを確立し、それまでの学校生活に大きな不満を感じていなかったFにとってAのような人物はなかなか理解しがたかった。
しかし、その日見たAは、参考書を片手に熱心に勉強していた。
FはAに声をかけようとするが、何か躊躇してしまう。
ライバルへのコンプレックスと、Aへの警戒心がFを止めてしまう。
Aは女子高生で、人見知りというかどこか近づきがたい雰囲気を持っていた。
もともと女子にモテたいがために勉強を頑張り、T大に合格したいと考えていたFにとって、Aは近づきがたい存在だった。
FはAの姿を遠目に眺めながら、複雑な思いに駆られる。
クラスメイトで唯一気にも留めなかったAこそが、実は、Fを打ち負かしているライバルなのかもしれない、そんな可能性が頭をよぎる。
というか、あれだけ探して見つからなかったのだからきっとAに違いない。その可能性が有力だ。
しかし、FはAに近づく勇気が出ない。
そのまま、立ち尽くすわけにもいかないため、Fは、Aがいた保健室から立ち去ることにした。
FはAの存在を忘れようと努力するが、Aの影は常に彼の心の中にあった。
ライバルへの劣等感と、真の天才とは何かという疑問が、Fを苦しめる。
Fは、「やはり満点を取って必ず1位を取らなければ……」と勉強に励んだ。
そして、Fの努力の甲斐もあって、Fは次の数学のテストでは100点を取り、見事1位を取り戻すことに成功した。
「100点取ったのか!Fはさすがだな。やっぱり、T大も余裕だよな。」
「頭脳派」のクラスメイトから変わらない賞賛を受けたことによって、Fはようやく一安心する。
「いやあ、俺も、満点を取ってようやく数学のことが少しはわかった気がするよ。ははっ。」
などと口にしながら、しかし、今まで自分が学年の中で余裕で1位を取ることができた事実に甘え、勉強をどこか怠っていたことに気付かずにいたら、今頃は100点を取ることができなかったかもしれない、そんな可能性が頭によぎり、Fは背筋が凍るような恐怖を感じた。
「結局、ライバルがAだったのかはわからない。だけど、そもそも、油断したらダメなんだ。満点を取れなければ確実に1位になることなんてできない、そんな当たり前のことを俺は今まで意識できていなかった……まさに井の中の蛙だ……」
Fはその後も、常に満点を目指し続け、1位をD高校内でとり続けたが、それからは「見えないライバル」が存在することを常に意識することとなった。
そして迎えた大学受験。Fは難なくT大に合格し、周囲の期待に応えた。
周囲から「合格発表前に『合格しました』とまでみんなの前で言えるだなんてさすがだな」と言われたが、Fはそのような声に耳を傾けることなく、D高校を卒業するまでの間、図書館で大学生向けの数学の教科書を読んでいた。
FはD高校で得ることができたポジションの良さにはもうこだわることなく、自分の知的好奇心の赴くままに勉強をするようにいつの間にかなっていた。
Fはその後、進学をしたT大でも地方出身の「頭がいい奴」として大きく注目を浴びることとなった。
FはT大を卒業後、准教授として最年少で就任する。
周囲からは天才数学者として称賛され、順風満帆な人生を送る。
しかし、Fは常に高校時代の経験を忘れずにいた。
数年後――
Fは、国際的な数学会議で講演を行っていた。会場には、世界中から著名な数学者たちを中心にいわゆるエリートと呼ばれるような人たちが集まっていた。
Fが講演を終えると、会場から拍手が沸き起こる。Fは満足そうな笑みを浮かべ、聴衆に感謝の言葉を述べた。
聴衆から質問がされる。
「F先生は本当に勉強熱心ですよね。こんなに若いうちから活躍していて我々からしてみると『いや、もう十分でしょう』と思うのにさらに努力を続けておられる」
そのようなことを言われるのはもう何回目だろうか。
Fは質問に答える。
「いやあ、小さな社会やコミュニティの中で、例えば、1位を取ったとしても、それはまさに井の中の蛙というやつですよ。それだけでは真理の探究なんてできない。意味がないんです。そもそも、もしかしたら、自分の知らないところでもっとすごいことができる人がいるかもしれない。そこで満足せずに自分にとっての最高の頂点を目指す、それが私は重要だと考えているんです。」
そんな中、Fはふと客席の一角に目を向ける。そこには、かつてD高校でクラスメイトだったAが座っていた。
Aは、立派なスーツを身にまとい、Fの講演を真剣な表情で聞いていた。
どうやら、Aは不登校の状態からもその高い学力によって、社会の中では少なからず活躍しているようだ。
Fの講演は非常に高度な内容で一般人が聞いても話についていくのが大変だ。
そんなFの難解な講演をわざわざ会場まで聞きに来るあたり、これは間違いないだろう。
AがFのことを覚えているのか、そもそもD高校時代から興味を抱いていたのかはわからないが、その頭の良さは健在のようだ。
質問に答え終わったFはマイクを下ろす。
Fは、Aとの出会いに感謝し、これからも数学を通して世界に貢献していくことを誓った。
そして、いつかAと一緒に、学問の新たな地平を切り拓いていきたいと夢見ていた。
物語の結末
この物語は、とある天才の栄光と挫折、そしてその出来事を教訓とした真の成功を描いたものである。
Fは、もともと将来を期待される存在であったが、高校時代に味わった挫折を乗り越え、真の天才として覚醒する。
そして、Aとの出会いによって、真の成功とは何かを学ぶ。
この物語は、私たちに以下のような教訓を与えてくれる。
- 才能は努力によって開花する。
- 真の成功とは、単に才能があるだけでなく、努力し続けること、である。
- 人との出会いは、人生を大きく変える可能性がある。
FとAの物語は、これからも語り継がれていくであろう。