~「たかが探し物」に潜む、大きなリスクと対策~
ヒヤリハットとは、重大な事故や災害には至らなかったものの、それに直結する恐れのある、一歩手前の出来事のことです。
「ヒヤリとした」「ハッとした」という、文字通り、危険を瞬間的に察知した状況を指します。
多くの人は、ヒヤリハット事例を認識した際には、再発防止のための対策を講じることが最善であることを理解しています。
しかし、問題は、そもそも何がヒヤリハット事例に該当するのかを正しく認識していないことが多いということです。
1. 「探し物に時間がかかる」は、なぜヒヤリハットなのか?
「探し物に時間がかかる」という状況は、日常的によく起こりうる出来事です。
多くの人は、「誰にでもあること」「大した問題ではない」と軽視しがちです。
しかし、これは、背後に大きなリスクが潜んでいる可能性のある、重要なヒヤリハット事例なのです。
なぜなら、「探し物に時間がかかる」ということは、
**「必要な時に、必要なモノが、すぐに見つからない」**
という状態を意味するからです。
これは、一見些細な問題に見えても、状況によっては重大な事故やトラブルに繋がる可能性があります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 製造現場: 必要な工具が見つからず、作業が中断してしまった。納期に遅れが生じ、顧客に迷惑をかけてしまう。さらに、焦って別の工具で代用しようとした結果、怪我をしてしまう可能性もある。
- 医療現場: 緊急時に必要な医療器具が見つからず、患者への処置が遅れてしまった。最悪の場合、患者の命に関わる事態に発展する可能性もある。
- オフィス: 重要な書類が見つからず、取引先への提出が遅れてしまった。その結果、契約が破棄され、大きな損失を被る可能性もある。
- 災害発生時: 非常持ち出し袋の中身が整理されておらず、必要な物資を取り出すのに時間がかかってしまった。避難が遅れ、命の危険に晒される可能性もある。
このように、「探し物に時間がかかる」という状況は、様々な場面で、業務の遅延、経済的損失、安全上の問題、さらには人命に関わる重大な結果を引き起こすリスクを孕んでいるのです。
2. 「探し物」の背景にある、管理体制の問題
「探し物に時間がかかる」というヒヤリハットの背景には、多くの場合、モノや情報の管理体制に問題があります。
- 整理整頓がされていない: モノの定位置が決まっておらず、使用後に元の場所に戻されていないため、どこに何があるのか把握できない。
- 在庫管理が不十分: 必要なモノが不足している、あるいは過剰に在庫を抱えているため、必要な時にすぐに見つけられない。
- 情報の共有不足: モノの保管場所や使用方法に関する情報が共有されていないため、必要な時に、必要な人に情報が伝わらない。
- ルールが不明確、または守られていない: モノの管理に関するルールが明確に定められていない、あるいはルールが存在していても、それが守られていないため、管理体制が機能していない。
これらの問題は、単に「探し物に時間がかかる」という現象を引き起こすだけでなく、組織全体の業務効率の低下、コストの増大、モチベーションの低下など、様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 「探し物」ヒヤリハットへの対策:5S活動の徹底
「探し物に時間がかかる」というヒヤリハットを防ぐためには、モノや情報の管理体制を抜本的に見直し、改善する必要があります。
そのための有効な手段の一つが、**「5S活動」**の徹底です。
5Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、躾の頭文字を取ったもので、製造業をはじめとする多くの現場で、品質向上や業務効率化のために導入されている活動です。
- 整理 (Seiri): 必要なモノと不要なモノを分け、不要なモノを処分する。
- 例:使用頻度の低い工具や、賞味期限切れの非常食を処分する。
- 整頓 (Seiton): 必要なモノを、必要な時に、すぐに取り出せるように、置き場所や置き方を決め、表示を徹底する。
- 例:工具の種類ごとに収納場所を決め、ラベルを貼って誰でも分かるようにする。非常口や消火器の位置を明示する。
- 清掃 (Seiso): 職場や設備を常に清潔に保ち、問題が発生した際にすぐに気づけるようにする。
- 例:作業台や床を定期的に清掃し、工具や機器の点検も同時に行う。
- 清潔 (Seiketsu): 整理、整頓、清掃を徹底し、清潔な状態を維持する。
- 例:3S活動を継続的に実施し、チェックリストを用いて実施状況を確認する。
- 躾 (Shitsuke): 決められたルールや手順を、全員が守るように習慣づける。
- 例:5S活動の重要性を教育し、定期的なミーティングで意識を高める。
5S活動を徹底することで、モノや情報の管理体制が改善され、「探し物に時間がかかる」というヒヤリハットの発生を未然に防ぐことができます。
4. 結論:「たかが探し物」と侮らず、リスク管理の意識を高める
「探し物に時間がかかる」という状況は、一見些細な問題に見えても、実は重大な事故やトラブルに繋がる可能性を秘めた、重要なヒヤリハット事例です。
「たかが探し物」と侮らず、その背景にあるリスクを正しく認識し、適切な対策を講じることが重要です。
5S活動の徹底などを通じて、モノや情報の管理体制を改善し、組織全体でリスク管理の意識を高めていくことが、安全で効率的な職場環境を実現するための第一歩となるでしょう。
そして、その意識こそが、より大きな事故やトラブルを未然に防ぐための、最も強力な「予防策」となるのです。