※本記事は「匿名」さんの考察リクエストに応じて作成されております。「匿名」さんご支援いただきありがとうございます。
はじめに
最近、「AIが人間にできないことは“泥臭さ”や“人間臭さ”だ」という話をよく耳にするようになりました。
たとえばコンサルタント業界では、AIに分析や戦略提案を任せる流れが加速する中で、
「今後は人間にしかできない“感情の調整”や“合意形成”が価値を持つ」といった議論が目立ちます。
たしかに、そうした仕事は一見AIには難しそうに見えます。
でも、それが人間の「最後の砦」だとしたら、少し寂しくないでしょうか?
本当に、人間の価値は「空気を読める」「しがらみを乗り越えられる」くらいの話なんでしょうか?
今回は、そんな「AI時代の人間の役割」について、少し違った視点から考えてみたいと思います。
「泥臭さ」ではなく、「判断軸を問えるか」が人間の分岐点
AIは、私たちが何かを「判断」しようとするときに、
過去の膨大なデータをベースにして、非常に“それっぽい”答えを出してくれます。
だからこそ、
「このままAIが全部決めてくれたら楽なんじゃないか」
「もう人間は、空気を読んで動くだけでいいのでは」
と思ってしまう人もいるのかもしれません。
でも、ここで忘れてはいけないのが、AIは“枠の中での最適解”しか出せないという点です。
たとえば、会社の未来を考えるとき。
- この市場は本当に魅力的なのか?
- 我々は何のために存在するのか?
- この制度は、今も有効なのか?
こうした問いに、AIは原理的に答えられません。
なぜなら、AIはあくまで「過去のパターンを最適化する存在」であって、
「そもそも何を価値とするか」という判断基準をつくることができないからです。
たとえば、こんな問いをAIは立てられない
想像してみてください。
あなたが働いている組織で、誰もが「当たり前」と思っていた慣習があったとします。
ところが、ある日、社外から来た一人のアドバイザーがこう言います。
「そもそも、それって必要ですか?」
この一言で、その場の空気が変わり、
長年続いていたプロセスが廃止されたり、制度が刷新されたりした経験はありませんか?
この「そもそも」という視点。
それこそが**AIには持てない“枠を超える問い”**なのです。
社外の人間が“空気が読めない”ことは、むしろ強み
よく、「社外の人間には現場の空気がわからないから使えない」という声を耳にします。
でも私は、それを逆に捉えています。
現場にどっぷり浸かっていないからこそ、“見えない前提”を問い直せるのです。
たとえば、「なぜこれを毎週会議で報告しているのか?」「誰のためにこの数字を出しているのか?」といったことは、内部の人間には案外見えていません。
社外の知性は、“現場で実行する人”ではなく、**“判断軸そのものを組み替える人”**であるべきです。
AIと人間の“いい関係”って、どういう形?
これからの時代、「AIを使える人」は増えていきます。
でもそれだけでは差がつかない。むしろ本当に問われるのは、
- AIの答えをどう読むか?
- その答えに対して「なぜ?」と問えるか?
- 答えではなく「問い」を再設計できるか?
という部分ではないでしょうか。
私はこれを、**「判断軸の編集者」**と呼びたいと思っています。
AIは素材をくれます。でも、何を価値とみなすかは、やっぱり人間の仕事なのです。
「泥臭さ」も「人間臭さ」も否定はしない、しかし──
もちろん、人と人との間でしか起きない「信頼形成」や「感情の読み合い」に価値がないとは言いません。
でも、それだけに人間の価値を押し込めてしまうのは、あまりにももったいないのではないでしょうか。
人間が本当に発揮すべき価値は、
- 世界をどんな視点で見るか
- 問題の構造をどう捉えるか
- 既存のルールや制度をどう読み替えるか
といった、**“見えないものを変える力”**ではないでしょうか。
最後に:私たちは「見えないもの」を変えるためにいる
AIの進化に伴って、さまざまな職業やスキルが見直されています。
でも、どんな時代でも「問いを変える人」がいたからこそ、組織も社会も進化してきました。
データを処理し、予測し、提案するのはAIでもできます。
けれど、「この提案は、私たちの“価値観”に本当に合っているか?」と問い直すのは、やはり人間にしかできないのではないでしょうか
人間とは、世界の判断基準そのものを問い直す存在。
そんな自覚を持つことで、私たちは「AI時代」の先を生き抜いていけるのではないでしょうか。