タイトルにつられてついつい買ってしまいました。
『最強のマルクス経済学講義』。

まず、見た目にすごくインパクトがあったので発売日直後に書店で発見し、ここでレビューをするためだけに購入しました。
なかなかこの配色は見ないですよね。すごくどぎついピンクです。
しかも、マルクス経済学講義ですからね。
なんか、最強とか書いてありますし。
しかし、値段は安くはないため、さすがに気になったとしても買うのには躊躇した人も多いのではないでしょうか?
しかも、手に取った人は分かると思われますが、やたらと厚いですし、当然のように400ページ以上あります。
というわけで、私が購入を躊躇している人たちのために今回は敢えて人柱として購入したので書評をします。
![]() | 価格:3,960円 |

![]() | 最強のマルクス経済学講義[本/雑誌] / 松尾匡/編著 神山義治/他著 価格:3,960円 |

さて、この本の「はじめに」の部分ですが、購入した後にこのページを読んでびっくりしましたね。
「読者としては、学部高回生の意欲ある学生とか、大学院修士課程生向けを意識するとのことだった。たしかに、当時特にこうした層をターゲットとした教科書は欠けていた。」
『最強のマルクス経済学講義』 はじめに より
どうやら初心者お断り本だったようです。
ここでいう学部高回生とは
経済学部
を指していると思われるわけです。
しかし、残念ながら、私は経済学部生ではありません。
また、大学院修士課程生というのも、
マルクス経済学を専攻する大学院修士課程生
をさしていると考えられますが
私はそのような人でもありません。
そんなわけですので、もはや1ページ目から嫌な予感しかしなかったわけですが、
購入してしまったのですから読み進めるしかありません。
まず、この本は、
第Ⅰ部 資本論体系
第Ⅱ部 数理マルクス経済学
第Ⅲ部 経済史
の三部構成となっています。
まず、第Ⅰ部の資本論体系は第6章まであり、ここまでで177頁ほど費やされております。
この部で『資本論』における理論をざっくりとおさらいしているのですが、
このおさらいの部分はまず初学者向けの文章ではありません。
用語のわかりやすい解説などは特にないままにどんどん文章が進んでいくので、
「そもそも『資本論』ではどのようなことが書かれているのか?」
ということを知りたい場合は、
この本ではなく、
以下の本をまずはおススメします。
![]() | 新編マルクス経済学再入門 上巻 商品・貨幣から独占資本まで [ 森田成也 ] 価格:2,200円 |

![]() | 新編マルクス経済学再入門(下巻) 商品・貨幣から独占資本まで [ 森田成也 ] 価格:2,200円 |

上記の本はマルクス経済学の再入門を謳っていますが、上下巻ですし、それぞれのページ数もそれなりに多いので、かなりボリュームがあると感じる人もいるかもしれません。
その分、解説の中には現代社会に生きている人向けの具体例の記述も入っているので、まずはこちらの方が読みやすいと考えられます。
「厚すぎる入門書もそこまで読みたくない。もっと気軽に読めるような本じゃないとキツイ」
と感じている人は
以下のような漫画から入った方が良いかもしれません。
![]() | 価格:748円 |

このように、
『最強のマルクス経済学講義』
をちょっと読んでみたいと感じた人が注意しなければいけないのは、
この本は、第Ⅰ部の時点から相当程度の事前知識を要求される本であるということです。
初心者向けの記述ではないですし、
そもそもマルクス経済学にさほど興味がない人向けの本ではない
ということです。
まさに、
「そこそこマルクス経済学について勉強したうえでさらに意欲のある人」
向けの本ということです。
第Ⅱ部の数理マルクス経済学では、投下労働価値の定式化と純生産可能条件などを数式を示して解説しておりますので、
ここも当然数式に抵抗感がない読者を想定していると思われます。
この部がこの本のメインディッシュとも言えますので、全体としてみると、数理マルクス経済学に興味がある人向けの本と言えるではないでしょうか。
個人的にこの部の記述において関心があったのは、
「日本における少子高齢化の進展と生産性上昇率」
に関する記述です。
要するに、少子高齢化に伴って医療や介護のサービスのニーズが高まっていく一方で、働き手の数は恐らく減っていくだろうという問題意識に関連した記述がこの本にはあります。
現実的には働き手に関連して日本人のみならず外国人に頼らざるを得ない状況にどんどんなっていくものと私は予想していますが、
そのような事情はおいておいて、少子高齢化によって働き手を確保するにあたって、日本でどの程度の生産性の向上(単位投下労働価値の減少)が必要になるのか、
という視点で考察を行っているのが興味深かったです。
ところで、『資本論』及びマルクス経済学に関連してこの本を読んで改めて興味深いと感じたのは、
相対的過剰人口
という概念です。
『資本論』においては、資本主義的生産様式は、資本の蓄積欲求に規定された労働力需要に対して過剰化された人口という意味における相対的過剰人口によって維持されているという説明があります。
雑な説明をすると、時折発生してしまう失業者の存在によって資本主義が支えられているという話です。
相対的過剰人口には以下の存在形態が挙げられます。
①流動的過剰人口(産業構造や労働力編成等の変化に伴って解き放たれたり、吸収されたりする)
②潜在的過剰人口(資本・賃労働関係に入る可能性を持ちながらその外部において生活している人々。自営の手工業者や農民のほか、専業主婦などの賃金労働者の扶養家族を含む)
③停滞的過剰人口(不規則・不安定で労働条件の劣悪な部分。日雇い労働者やパート・アルバイト、内職などの不安定就労層である。)
『最強のマルクス経済学講義』 115頁より
上記の説明を読んだ上で、
近年のFIREムーブメントについて考えると、
何らかの形でFIREをしようとしている人は必然的に上記の相対的過剰人口に位置づけられるということになりそうですね。
ずっと同じ勤め先で正社員をしている人以外は基本的にこの相対的過剰人口に位置づけられるでしょう。
年金生活をしている高齢者の位置づけがどうなのかは少し悩ましいかもしれません。
近年の高齢者は昔に比べると比較的元気があり、労働力としては活躍し得る上に、年金や貯金だけでは生活が足りない人はそのうち働かざるを得ないという話になるので、②の潜在的過剰人口として位置付けられるでしょうか。
そういう社会全体の視点で見ると、興味深いと感じました。
以上のように、この本は事前知識をかなり要求される本ですが、マルクス経済学に関心のある人には読み応えのある本としておススメできます。
![]() | 価格:3,960円 |
