ふと、私が田舎に戻った際によく聞こえてくる会話があります。
「隣の●●さんは立派な家を建てたそうだよ~一人前になったなー」
とか
「この前まで高校生だったあの子は車を買ったらしいよ。立派になったよな~」
といった
家や車を買ったことに対する噂話
が多いですね。
しかも、
ただ購入した、というニュアンスのみならず、
「それほどあの人は一人前になった、立派になった」
といったニュアンスを含んでいることが多いようです。
家や車というのは日常生活で用いるものの中で比較的高額な部類になります。
そのため、一定ライン以上の購買力がなければ家や車というのは買えないことが多いです。
したがって、
家や車を購入できる=一定ライン以上の購買力を有する
ということですから、
仮に、一人前、立派という表現において、
「一定ライン以上の購買力を有する」
という意味をも含有している場合、
「家を買ったから一人前」
「車を買ったから一人前」
と言えるのかもしれませんね。
しかし、この
購買力
という言葉は曲者です。
というのも、多くの人は、家や車を購入する際に、
住宅ローン
や
オートローン
を使用しており、手元のキャッシュで全額を支払っていることは稀です。
そもそもキャッシュで全額払える人は、●●ローンを使用せずとも
「一定ライン以上の購買力を有する」
という状態になるのですが、
●●ローンを使用しないと、家や車を購入できない人というのは、
その融資をしてくれる人物がいなければ、
「一定ライン以上の購買力を有する」
といえるだけの状態になれないため、その人単体では家や車を買うことができないのです。
こうなると、
「一人前ってそもそもなんだっけ?」
という話にもなりそうですね。
しかし、実際には●●ローンを用いて家や車を購入している人は多いです。
それでは、なぜ、家や車をの代金を全額支払えない人に対して、お金を●●ローンという形で貸してくれる人が存在するのか?
それは、
その人に返済能力があるから、すなわちその人の将来の購買力に期待できるから(=だから、利息で儲けたい)
からでしょう。
これは、借り入れる側から見ると、
自分の現在時点の購買力と将来時点の購買力を交換するという取引
を行っていると言えます。
これによって、
自分の現在の購買力を水増しすることが可能になり、家や車を購入することが可能になります。
もちろんこれは、
将来の購買力が一定以上存在する可能性が高いということを相当程度予測できる場合でなければ成立しない話です。
例えば、
入社1年目の社会人に対して住宅ローンやオートローンを提供してくれる金融機関は少ないです。
「もう少し勤続年数を増やしていただいてから……」
などと言われることもあります。
逆に、入社してから3年以上たつと、ローンを提供してくれる金融機関は増えてきます。
これは、終身雇用、年功序列という慣習に守られた社会特有の話ですが、3年間も同じところで勤めることができた人に対しては、
「このまま勤続し続けてくれるのであれば、60歳を超える頃まで、どんどん昇給していく形で給与も上がるだろう」
という予測が立つことから、
長期間にわたるローンであっても提供してくれる金融機関が増えてきます。
これが勤め人が持つ最大の武器、信用力の中身と言えるでしょう。
しかし、公務員ならばともかく、昨今は、計算通りに昇給するとは限りません。
例えば、25歳の頃に
「自分が50歳になったら給与はここまで上がっているだろう」
と予測していたとしても、
現実の25年後にはそれほど給与が上がらないこともあります。
それどころかリストラされる可能性もあります。
したがって、25歳の段階で
「自分が50歳になったら給与はここまで上がっているだろう」
と考えたとしても、将来時点における購買力はかつて期待していたほどない可能性があります。
その場合、
自分の現在時点の購買力と将来時点の購買力を交換するという取引
における前提が一部崩れることになります。
こうして、
住宅ローン破綻
などといった問題が噴出することになります。
自分の将来時点における購買力はなかなか想定が難しいですから、このような計画の破綻が起こってしまいがちなのです。
家や車を購入する=「一定ライン以上の購買力を有する」=一人前になった、立派になった
という図式の裏にはこのような罠があったりします。
これは、実態としては、若い自分が「一人前になった将来時点の自分」を前借りしていたようなものです。
「家を買ったから一人前」
という通念は(特に田舎においては)まだまだ強いものですが、
これは、ローンを組んで足りない分の購買力を水増しする場合、
①定年になるまで一日何時間も働き続ける
②定年になるまでずっと昇給し続ける
という形で未来に対してツケを残すことを前提とした取引になる可能性があります。
もちろん、経済的にみてローンを組んででも早く家や車を購入した方がいい場合もあります。
しかし、場合によっては、経済的な価値よりも、
「周りの人から『一人前になった』と言われたい」
「『立派な家を買うことができてうらやましい』と周りの人に言われたい」
というささやかな気持ちを購入することがその人の実際のメインの購入動機になっている可能性もあります。
家や車を購入することは魅力的ですが、
「なぜ、自分は敢えて家や車を購入しようとしているのか?」
と考えてみて、リスクと見比べて検討してみるのが良いでしょう。
ちなみに、
「家を買ったから一人前」なのか「一人前だから家を買える」のか
の例にもあるように、
因果関係を逆転させることによって、上手く儲かっている産業というのはたくさんあります。
例えば、
結婚
などもこれに近いものがあります。
「結婚したから一人前」なのか「一人前だから結婚できる」のか
といった具合ですね。
因果関係の逆転はよく見られるので気を付けたいところです。