コミュニケーションという言葉があります。
これは油断すると、「他人と仲良くするための能力」と思い込みがちでもありますが、いわゆる交渉の際にもコミュニケーション、意思疎通というのはとっていることから、利益が相対する関係の中でどのように折り合いを付けるのか、その折り合いを付けるための技術というのもコミュニケーション能力の一種になってくると思います。
そして、交渉というものを行う際には当然「どのような条件を出すのか」「この条件は相手がのめるのか」といったことも重要になってくると思いますが、私がそれ以上に大事にするべきと考えているのは「ストーリー性」です。
相手の状況と自分の状況をよく見て、いかなる条件を提案するのが良いのか、という視点は要するに経済的合理性を追求した考え方ということとなり、相手が100%経済的合理性を追求するタイプだったら効果があります。
しかし、世の中というのはそこまで単純ではなく、経済的合理性を度外視した判断が現実的には行われているということもあります。そして、このような判断の方がお互いの納得感があり、気持ちよく決まる物です。
もちろん、この経済的合理性追求の度合いというのは人によって異なる点がある、というのは注意するべき点にはなるとおもますが、経済的合理性の観点以外の観点も手札として考えておくことは極めて重要になってくると思います。
そして、この手札として個人的に重視しているのがストーリー性です。
ざっくりいうと、相手と自分との間で社会的関係をしっかりと築いた上で少しずつ交渉の土台に移っていくのが良いと考えています。
テクニック的な話をすると、まずは全く知らない赤の他人との関係から脱するべく、相手との接触頻度を高めることが重要になってきます。単純接触の原理です。
何度も接触していくと自ずと相手との間に社会的関係が結ばれ、相手との初対面から現在までの時間軸でのストーリーが何らかの形で形成されていくのです。
ストーリーといってもずっとお互いに悪印象のままとなると勿論意味が無いので、少なからず良い関係になるべく努力は必要です。
しかし、それでも時間をかけて醸成された人間関係を基礎に交渉に入った方が、いきなりやってきて経済的合理性を前面に出した交渉術よりは確実に威力があると感じています。
具体的には恋愛漫画によくあるように、「最初見たときは大して興味が無かったけれども、●●というきっかけがあってそこから少しずつ仲良くなっていき、最終的には結婚に至ったのです」というようなストーリー性があった方がお互いも気持ちいいですし、端から見ていても、いい話だな、となりやすく受け入れやすいです。
このようなストーリー性も加味した方法はいわゆる銀行や保険の勧誘における、「営業」の一種を行うという発想に近いのですが、少しずつ関わって人間関係を創った上で売り込みをかけるというのは古典的ではありますが、確実に効果があります。
何らかの事情で交渉なるものをしなければならない人は、交渉をすると言うよりは営業をかける営業マンのような形で関わっていくという姿勢も大事になってくると思います。
さて、私もそうですが、一般的に営業というのもあまり人気の無い業種の一つかと思います。
これは断られるのが怖いとか、押し出せないというような悩みが主にあるのだと思いますが、上記に書いたように営業というのも人間関係をまずは創ってから売り込みをかける職業なので、人間関係をつくる営みだと考えた方が良さそうです。
そして、人間関係をじゃあつくればいいのねと思ってもネックになるのは、時間的な制約です。
とある研究で「親友を創るためには200時間の自発的な関わりが必要」と言われているらしいですが、逆に言えば、200時間をまずは何らかの工夫、努力で創らないと親友はできようがないというキツい事実を突きつけられているとも言えます。
社会人になってから新しい人間関係を創るのに苦労するという話はよく聞きますが、立場などの他にそもそも忙しすぎてこの200時間を確保できない、という事もあると思います。
この観点から、どのような人に対してどのくらい時間を意識的にかけるべきなのか、という時間管理の観点で考えていくのがよいと思っています。