~「金額」だけが目標? 立ち止まって考える、資産形成との向き合い方~
近年、「老後2000万円問題」などを背景に、資産形成への関心が高まっています。
投資信託、株式投資、不動産投資など、様々な方法で資産を増やそうとする人が増えているのは、将来への備えという点で、非常に好ましい傾向と言えるでしょう。
しかし、その一方で、「とにかく金額を増やしたい」という思いが先行し、資産形成の本来の目的を見失い、その過程で大切なものを犠牲にしてしまう人がいることも、また事実です。
1. 金額至上主義の落とし穴:見失われる「何のために」
資産形成ブームの中、多くの情報が「いかに効率よく資産を増やすか」という点に焦点を当てています。
もちろん、効率的に資産を増やすことは重要ですが、「金額を増やすこと」自体が目的化してしまうと、様々な弊害が生じる可能性があります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 過度なリスクを取る: 高いリターンを期待するあまり、リスクの高い投資商品に手を出してしまい、結果的に大きな損失を被ってしまう。
- 家族との時間を犠牲にする: 副業や投資の勉強に多くの時間を費やすあまり、家族とのコミュニケーションが疎かになり、関係が悪化してしまう。
- 健康を損なう: 資産を増やすために、過重労働や睡眠不足が続き、心身の健康を損なってしまう。
- 人間関係の希薄化: お金儲けにばかり目が向き、友人や知人との付き合いが減り、人間関係が希薄化してしまう。
- 強迫観念に駆られる: 「もっと増やさなければ」「損をしてはいけない」という強迫観念に駆られ、ハイスコアを目指してしまい、精神的に追い詰められてしまう。
これらは、資産形成の過程で「そもそも、何のために資産を形成するのか」という本来の目的を見失ってしまった典型的な例です。
多くの場合、資産形成の目的は、「将来の経済的な不安を解消し、より豊かで充実した人生を送るため」であるはずです。
しかし、金額だけに捉われてしまうと、その目的を達成するための手段であるはずの資産形成が、いつの間にか人生の目的そのものにすり替わってしまうのです。
2. 相続税の存在:資産形成の「出口戦略」を意識する
さらに、忘れてはならないのが「相続税」の存在です。
どれだけ一生懸命に資産を増やしたとしても、自分が亡くなった際には、その資産は相続人に引き継がれ、一定額を超える部分には相続税が課せられます。
つまり、苦労して築き上げた資産の一部は、最終的に国に返還することになるのです。
もちろん、相続税は、富の再分配や財政の健全化など、社会的に重要な役割を担っています。
しかし、資産形成に取り組む個人にとっては、無視できない「出口戦略」の一つです。
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
- 相続税対策を怠った場合: 十分な相続税対策をせずに亡くなってしまうと、相続人が多額の相続税を納めなければならず、せっかく築き上げた資産が大きく目減りしてしまう可能性があります。
- 納税資金の準備不足: 相続税は原則として現金で納付する必要があります。しかし、相続財産の多くが不動産や非上場株式など、現金化しにくい資産である場合、納税資金の準備が大きな課題となります。流動資産を上手く残してあげない場合は相続人から「相続税を支払わないといけなくて大変だし、迷惑」と言われかねません。
これらの例からも分かるように、資産形成においては、単に「金額を増やす」だけでなく、相続税の存在を意識した「出口戦略」を考えることが重要なのです。
3. 資産形成との賢い向き合い方:「金額」より「目的」を重視する
では、私たちはどのように資産形成と向き合えば良いのでしょうか?
大切なのは、「金額」そのものよりも、その先にある「目的」を重視することです。
以下、具体的な指針をいくつか挙げてみましょう。
- 目的を明確にする: 「何のために資産形成をするのか」「どのような人生を送りたいのか」を明確にしましょう。老後の生活資金、子供の教育資金、趣味を楽しむための資金など、具体的な目的を設定することで、モチベーションを維持し、適切な目標金額を設定することができます。
- 自分に合った方法を選ぶ: 投資には様々な方法があります。リスク許容度やライフスタイルに合わせて、自分に合った方法を選ぶことが重要です。無理なく続けられる方法を選ぶことが、長期的な成功の鍵となります。
- バランスを大切にする: 資産形成だけに偏るのではなく、仕事、家族、趣味、健康など、人生の様々な側面とのバランスを大切にしましょう。お金はあくまでも、人生を豊かにするための手段であることを忘れてはなりません。
- 相続税対策を検討する: 生前贈与や信託の活用など、様々な相続税対策があります。専門家に相談しながら、自分に合った対策を検討しましょう。
- 人生を楽しむことを忘れない: 資産形成は、あくまでも人生を豊かにするための手段です。お金を増やすことに囚われすぎず、今この瞬間を楽しむことも大切にしましょう。
4. 結論:資産形成は、人生を豊かにする「手段」
資産形成は、将来の経済的な不安を解消し、より豊かで充実した人生を送るための有効な手段です。
しかし、「金額を増やすこと」自体が目的化してしまうと、その過程で大切なものを見失ってしまう危険性があります。
そして、どれだけ資産を増やしても、最終的には相続税として一部を国に返還することになるという現実を、私たちは忘れてはなりません。
だからこそ、私たちは、資産形成に取り組む際には、「何のために」「どのような人生を送りたいのか」という目的を常に意識し、「金額」だけに捉われない、バランスの取れた付き合い方を心がけることが重要なのです。
資産形成は、人生の目的ではなく、あくまでも手段です。
そのことを忘れずに、賢く、そして楽しく、資産形成と向き合っていきましょう。そして、その先に、真に豊かで充実した人生を築いていきましょう。