~プロの専門性も、偏見のフィルターを通せば歪む~
占い師は、カードや星の配置など、様々なツールを用いて相談者の運勢や未来を読み解く、いわば「見えない世界」の専門家です。
しかし、どれほど卓越した技術や経験を持つ占い師であっても、人間である以上、認知バイアス、つまり、無意識のうちに生じる思考の偏りや歪みから逃れることはできません。
そして、この認知バイアスは、占い師が展開されたカードからのメッセージを正確に読み取ることを妨げ、結果的に相談者に対して誤ったアドバイスをしてしまう危険性を孕んでいるのです。
これは占い師に限った話ではありません。あらゆる分野の専門家が、自身の持つ専門知識を活かして適切な判断を下すためには、前提となる事実認識が正確であることが不可欠です。
しかし、その前提に勘違いや偏見、すなわち認知バイアスがあると、いくら高度な専門知識を持っていても、それを活かすことができず、明後日の方向へと考えを進め、誤った結論に至ってしまうのです。
1. 占い師を惑わす認知バイアスの罠
占い師は、相談者の悩みや状況に応じて、タロットカードや占星術など、様々な占術を用いて鑑定を行います。
しかし、その過程で、以下のような認知バイアスが働く可能性があります。
- 確証バイアス: 自分の先入観や仮説に合致する情報ばかりを集め、反証する情報を無視したり、軽視したりしてしまう傾向。 例えば、「この人は恋愛で悩んでいるはずだ」と思い込んでしまうと、展開されたカードの中から、恋愛に関連するシンボルばかりに注目し、他の重要なメッセージを見落としてしまう可能性があります。
- 後知恵バイアス: 物事が起こった後に、「最初からそうなると思っていた」と、過去の自分の判断を過大評価してしまう傾向。 例えば、相談者の現状を聞いた後、展開されたカードを見て、「やっぱり、このカードが出ていたから、こうなったんだ」と、結果から逆算して、カードの意味を都合よく解釈してしまう可能性があります。
- 正常性バイアス: 自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりすることで、現状維持を正当化しようとする傾向。 例えば、明らかに悪い状況を示すカードが出ているにもかかわらず、「一時的なもの」「大した問題ではない」と、楽観的な解釈をしてしまう可能性があります。
これらの認知バイアスは、占い師自身の経験や価値観、さらには相談者の言動などによっても、無意識のうちに強化されてしまうことがあります。
2. 専門家の盲点:前提の誤りが、結論を歪める
認知バイアスの怖いところは、専門家自身が、自分の思考が偏っていることに気づきにくい点です。
彼らは、長年の経験と知識に基づいて判断を下しているため、自分の判断に自信を持っています。
しかし、その自信が、前提となる事実認識の誤りを見えにくくしてしまうのです。
例えば、ある占い師が、「仕事で成功するためには、独立・起業すべきだ」という強い信念を持っていたとします。
そして、ある相談者が「仕事で悩んでいる」と相談に来たとします。この時、占い師が確証バイアスに陥っていると、展開されたカードの中から、「独立」「新しい始まり」といった意味を持つカードばかりに注目し、「あなたには起業家の才能がある。今すぐ会社を辞めて、独立すべきだ」というアドバイスをしてしまうかもしれません。
しかし、相談者は、実は職場の人間関係に悩んでいるだけで、独立を考えているわけではないかもしれません。
あるいは、安定志向が強く、リスクを取ることに抵抗があるかもしれません。
この場合、占い師のアドバイスは、相談者の状況や性格を無視した、的外れなものになってしまいます。
これは、占い師が「仕事で成功=独立・起業」という、誤った前提、あるいは偏った価値観に基づいた前提に立って、専門知識を適用してしまったために生じた、判断の誤りです。
3. 素人目線の重要性:専門家の間違いに気づくために
では、相談者は、専門家の判断の誤りをどのように見抜けば良いのでしょうか?
ここで重要となるのが、専門分野に対する「多少のイメージ」と「素人目線」です。
完全に専門的な知識を持つ必要はありません。
占いの例で言えば、タロットカードであれば大アルカナ、小アルカナの基本的な意味、代表的なカードのイメージ、占星術であればホロスコープの基本的な読み方といった、基本的な知識や、どのようなものかというイメージがあるだけでも、占い師の説明と自分の直感を照らし合わせることが出来るため、明らかな間違いには気づきやすくなります。
例えば、先ほどの「仕事で悩んでいる相談者」の例で考えてみましょう。
もし相談者が、タロットカードの「ソードのエース」が「独立」「新しい始まり」といった意味を持つことを知っていたとします。
そして、占い師が「ソードのエース」を根拠に、「独立すべきだ」とアドバイスしてきたとします。
しかし、相談者が自分の状況を冷静に分析し、「自分は独立したいわけではないし、今の職場で自分の意見を伝えて問題を解決し、新しい職場の環境を作りたいだけだ」と感じていれば、占い師のアドバイスに違和感を覚えるはずです。
この「違和感」こそが、専門家の判断の誤りに気づくための、重要なシグナルなのです。
4. 建設的なコミュニケーション:共に真実に近づくために
違和感を覚えたら、それを占い師に率直に伝え、対話を通じて真実に近づいていくことが重要です。
例えば、「ソードのエースは『独立』を意味するカードだと聞いたことがありますが、私は今のところ独立は考えていません。このカードには、他にどのような意味があるのでしょうか?」といった具合です。
このような質問をすることで、占い師は自分の判断を再検討し、別の視点からカードを読み解くきっかけを得ることができます。
もしかしたら、占い師は別のカードの組み合わせから、相談者の真の悩みに気づくかもしれません。
あるいは、相談者自身が、自分の気持ちを整理する中で、新たな気づきを得るかもしれません。
重要なのは、占い師と相談者が、一方的な「教える-教えられる」の関係ではなく、対等な立場で、共に真実を探求するパートナーとして、コミュニケーションを取ることです。
5. 結論:専門家の知識を活かすための、賢い相談者
占い師に限らず、あらゆる分野の専門家が、認知バイアスに陥り、判断を誤る可能性があります。
そして、その誤りは、時に相談者やクライアントの人生に大きな影響を与えてしまうこともあります。
だからこそ、私たちは、専門家の言葉を鵜呑みにするのではなく、自分自身で考え、判断する力を養う必要があります。
そのためには、専門分野に対する「多少のイメージ」と「素人目線」を持ち、違和感を覚えたら率直に質問し、建設的なコミュニケーションを通じて、共に真実に近づいていくことが重要なのです。
専門家の知識は、私たちがより良い人生を送るための強力なツールです。
しかし、そのツールを真に活かすためには、私たち自身が、賢い相談者、賢いクライアントとなることが求められているのです。