レビューや論評を行う際、私たちは目の前の文章や提示された情報に意識を集中しがちです。
書かれている内容に誤りや矛盾がないか、この論理は破綻していないか、といった点に注目し、指摘や批判を加えることは、ある意味で容易な作業です。
しかし、真に深い洞察を得るためには、「書かれていないこと」に目を向ける必要があります。
なぜ「書かれていないこと」が重要なのか
書面に書かれていないこと、つまり、意図的に省略された情報、前提として共有されているはずの知識、あるいは筆者自身が気づいていない視点などは、書かれていること以上に重要な意味を持つ場合があります。
- 意図的な省略: 重要な情報を隠蔽したり、都合の悪い事実を隠したりするために、意図的に情報が省略されることがあります。
- 前提の共有: 筆者と読者の間で、ある程度の知識や価値観が共有されていることを前提として、説明が省略されることがあります。しかし、この前提が常に正しいとは限りません。
- 無意識のバイアス: 筆者自身が気づいていない偏見や思い込みによって、特定の視点や情報が排除されていることがあります。
- 潜在的なリスク: 現時点では顕在化していないが、将来的に問題となる可能性のあるリスクや課題が見過ごされていることがあります。
これらの「書かれていないこと」に気づき、言及することは、より深く、多角的な視点から物事を理解するために不可欠です。
具体例
例1: 製品レビュー
ある製品のレビューで、「使いやすい」「デザインが良い」といった肯定的な意見が多く寄せられているとします。しかし、
- 耐久性: 長期間使用した場合の耐久性については、全く言及されていないかもしれません。
- 安全性: 安全性に関する情報が不足しているかもしれません。
- 環境負荷: 環境への配慮に関する記述がないかもしれません。
- 競合製品との比較: 他の製品と比較して、本当に優れているのかという視点が欠けているかもしれません。
これらの「書かれていないこと」に注目することで、製品の真の価値を見極めることができます。
例2: ニュース記事
ある事件に関するニュース記事で、「犯人は逮捕された」「被害者は重傷を負った」と報じられているとします。しかし、
- 事件の背景: 犯行の動機や、事件に至るまでの経緯が詳しく書かれていないかもしれません。
- 被害者の支援: 被害者のその後の生活や、必要な支援に関する情報が不足しているかもしれません。
- 社会的な問題: 事件の背景にある社会的な問題(貧困、差別、教育など)への言及がないかもしれません。
これらの「書かれていないこと」を掘り下げることで、事件をより深く理解し、再発防止策を考えることができます。
例3: 企画書
新しいプロジェクトの企画書で、「市場規模は拡大している」「競合は少ない」と書かれているとします。しかし、
- 市場の成長性: 市場規模は拡大しているが、その成長率は鈍化しているかもしれません。
- 競合の定義: 競合が少ないとされているが、それは狭い範囲での定義であり、代替品や潜在的な競合を含めると、競争は激しいかもしれません。
- リスク: プロジェクトのリスクや、失敗した場合の対策が十分に検討されていないかもしれません。
これらの「書かれていないこと」を明らかにすることで、企画の実現可能性や成功の確率をより正確に評価できます。
「書かれていないこと」に気づくために
「書かれていないこと」に気づくためには、以下の点に注意する必要があります。
- 批判的思考: 書かれていることを鵜呑みにせず、常に疑問を持つ姿勢が重要です。
- 多角的な視点: 異なる立場や視点から物事を考えることで、見落としに気づきやすくなります。
- 前提の確認: 筆者と読者の間で共有されている前提を疑い、本当に正しいのか確認しましょう。
- 情報収集: 書面以外の情報源(関連書籍、専門家の意見、インターネットなど)にもあたり、情報を補完しましょう。
- 行間を読む: 言葉の裏にある意図や、省略された情報を読み取る力(行間を読む力)を養いましょう。
まとめ
「書かれていること」に指摘やケチをつけることは簡単ですが、「書かれていないこと」に言及することは、より高度な思考力と注意深さを必要とします。
しかし、この「書かれていないこと」に目を向けることで、私たちは物事の本質を見抜き、より深い洞察を得ることができるのです。